言葉のいちばんうしろ

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それでも時計は動きだす


思考がだんだん消えていく。そんな気持ちになっていた。そして、気づいたときにはもう世界は閉じかけていた。完全に閉じてしまうまで、そんなに時間はかからなかった。僕はポケットに入れている小物を手で探りながら、何事もない眠りにつくようにそれはおとずれた。
目が覚めると満員電車の中で僕は座っていた。はじめは何も聞こえなかったし、何も感じなかった。電車の中は矛盾で満ちていた。電車内に使われている金属やガラス、つり革、プラスチック、ありとあらゆる物質は傷ひとつない。電車はまったく揺れていないにも拘わらず、ススキが風を感じるように電車を埋め尽くしている人達は揺れていた。そのなかには、サラリーマンや二十歳前後の学生と思われる若者や、口いっぱいに飴をほおばっている少年などに混じって、子犬を連れた婦人や水着を着た女性、ぺヤングソース焼きそばのような顔をした人が乗っていた。僕はなぜか、その不思議な環境の中でやっと映画の本編が始まったのか、というような気持ちになりとても安堵した。
いったい僕は何線の電車に乗っているのだろう。天井に空いた天窓から降注ぐ光を感じながらそう思った。
僕の思考は働いているようだ。このような状況下において、現実との整合性を図る自分に気づいた。
はじめは、いったい何が起こったのかまったくわからなかった。
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by maasaan | 2005-01-19 01:58 | それでも時計はうごき出す